国内からリモート管理可能な工場を、リーズナブルな価格で実現
インターフェイスの標準化によって、さまざまなデバイスを自由に組み替えてIoTを実現したい。Tibbo-Pi製品化前からそのコンセプトを理解いただき、スマート工場のエッジ&ゲートウェイデバイスとしてご活用いただいている株式会社 日立ハイテクノロジーズ 先端産業部材事業統括本部 チーフビジネスアーキテクト 中島洋氏に、お話を伺いました。
TIbbo-Piはどのように活用されているのか、総力取材!
取材No. 1
インターフェイスの標準化によって、さまざまなデバイスを自由に組み替えてIoTを実現したい。Tibbo-Pi製品化前からそのコンセプトを理解いただき、スマート工場のエッジ&ゲートウェイデバイスとしてご活用いただいている株式会社 日立ハイテクノロジーズ 先端産業部材事業統括本部 チーフビジネスアーキテクト 中島洋氏に、お話を伺いました。
先端産業部材事業統括本部
事業戦略部
チーフビジネスアーキテクト
中島 洋 様
■企業データ
〒105-8717
東京都港区西新橋1丁目24番14号
https://www.hitachi-hightech.com
――Tibbo-Piをどのように使われているのでしょうか。
中島様(以下、敬称略):弊社のシェア工場(Smart Factory as a Service)で使用しています。海外に製造拠点を持ちたくても単独では進出することが難しい中小製造業をターゲットに、複数の事業者で現地の1つの工場をシェアします。
シェア工場は日本からリモートで現地作業員の作業手順を指示・管理して、生産結果がモニターできる仕組みをビルトインしており、エッジコントローラーとしてTibbo-Piを使用しています。Tibbo-Piに大きなディスプレイと測定器や工具、スイッチ、シグナルなどを接続しています。
(Tibbo-Piをエッジコントローラーとしてさまざまなデバイスを接続)
作業指示をディスプレイに映して作業員が参照し、工具やスイッチを操作して作業を行います。その結果がTibbo-Piに送信され、作業が正しく行われているかをチェックします。作業結果が正しい場合はディスプレイ上で次の工程が指示され、正しくなかった場合はやり直しや廃棄が指示されます。また結果はクラウドプラットフォームに送信され、日本で確認できます。
複数の企業が共同で海外に工場を建設してシェアするというモデルは従来もありました。しかし、設備は共有できても、結局生産技術がわかる人が現地で指導する必要があり、そのために日本から人を派遣するのが大きな負担となっていました。Tibbo-Piを使用して、手順書通りの工程で、正しい製品だけを生産することが可能になりました。このような工夫をしているシェア工場はおそらく初めてだと思います。
――現地工場の作業員への技術移転と管理を日本から行うことで、海外進出のハードルとなる人的コストを抑えるという発想ですね。Tibbo-Piを採択された理由は何でしょうか。
中島:2016年の終わりごろに茨城県で行われていたIoTの勉強会で、コー・ワークスの淡路さんにお会いしたことですね(笑)。日本からリモート運用ができる海外のシェア工場というアイデアは既にあったのですが、それをフルスクラッチで組み立てるのではなく、できるだけ汎用性が高く、柔軟性の高いシステムとして実現する方法はまだ思いついていませんでした。
課題がいくつかありました。まず、巷でIoTで実現するスマート工場と呼ばれているような工場と現実の工場の乖離です。我々がシェア工場で支援したかったのは、AIを搭載したロボットが自律的に動くような工場ではなく、ボール盤、カッター、グラインダーといった昔ながらの設備が並ぶ現実の町工場です。これをデジタル化する仕組みが必要でした。
また、生産手順は頻繁に変わるので、それに柔軟に対応できること。最後に、中小企業は生産設備に過剰なIT投資はかけられないので、それらがリーズナブルな価格で実現できることが必要でした。
淡路さんに相談したら、「それ、全部できるベースがあります」と言われました。Raspberry Piと各種機器をNode-REDで接続するインターフェイス(I/F)をブロックのように組み合わせて、クラウドに接続するという仕組みで、安いコストで人が動かす設備の動作をデータ化することができる。当時はまだTibbo-Piという製品にはなっていなかったのですが、これはいけそうということで、相談しながら仕様を決めていきました。
――Tibbo-Piのコンセプトと出会ったことで、アイデアが実現に向かって動き始めたのですね。
中島:はい。翌年、タイに工場を建設して、本当にこの方法で生産が可能か、実証実験を行うことになりました。2017年10月にはこのプロジェクトが日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施する「日ASEAN新産業創出実証事業」に採択されています。その結果をもとに、2018年6月、現地企業と共同で工場インフラの整備、調達、採用、経理などの工場運営を行う合弁会社を設立、営業を開始しました。エレベーター部品を中心に複数企業の生産品目を順次増やしていきます。
――Tibbo-Piを使ってどのように現場に指示を出していくのでしょうか。もう少し詳しく教えてください。
中島: メソドロジー(フレームワークとナレッジベースのアーカイブ)という仕組みを作りました。まず、現場をコンサルタントが動画撮影やヒアリングで調査し、製造の手順をワークシートを使って明文化します。これに基づき、機器別に操作のタイミングや確認のポイントを記述した作業手順シートを作成します。これが、制御プログラムの骨格になります。作業手順書からTibbo-Piのプログラムに落とす仕組みを、コー・ワークスのエンジニアの方と一緒に開発しています。どのセンサーから値を取得してどう制御するかをエクセルのシートに入力すると、Tibbo-Piのプログラムに変換されます。
従来、生産機械の自動制御はPLC(programmable logic controller)で行っていましたが、手順が変わればプログラム書き換えをベンダーに依頼する必要がありました。Tibbo-Piなら、手順書に従ってセンサーの種類、値、制御を書くだけなので、自社でも変更ができます。
コー・ワークスのエンジニアの方は、製造業の現場の知見もお持ちです。「こんなことをやりたい」と言えば、それを実現するためにどのようなセンサーで何を測ればいいか、どの機器をどのように制御すればよいかということを提案していただけます。そして、柔軟な手順の組み換えに対応するために、「Tibbo-PiのI/Fブロックを差し替えるだけで手順も組み替えられる」仕組みを開発していただきました。
Tibbo-Piはハードウェアだけでなくソフトウェアもブロックを組み合わせるように構築できます。なので、新しいデバイスに対応したI/Fブロックをどんどん増やしていくことで、接続できる機器も増えていきます。その点も、どんどん進化していく製造現場と親和性が高い仕組みだと思います。
――タイの工場ではTibbo-Piはどのように配置されているのですか?
中島:「パイプをカットするエリア」「穴をあけるエリア」など、1つの作業エリアに1台のTibbo-Piを配置しています。作業員はRFID付きのIDを身に着けていて、作業台の前に立つとその人に割り当てられた作業手順がディスプレイに表示されます。作業の様子は動画とTibbo-Piに接続されたセンサーで記録され、クラウドに送信されます。
(タイのシェア工場の作業ブース)
――Tibbo-PiはRaspberry Piを利用していますが、故障に対して不安はないですか?
中島:今までにTibbo-Piが故障したことはないですね。動画を撮影しているカメラは熱暴走したことがありますが、Tibbo-Piは人間と相対しているのでそれほど熱も問題になりません。故障に対する不安といっても、機械なんですから壊れるのは当たり前だし、あらかじめ予備を用意しておき、壊れたら入れ替えればいいだけの話だと思うんですよ。Raspberry PiベースのTibbo-Piならそれが可能です。
――そもそも中島さんは、なぜ「日本からリモートで運用できる海外のシェア工場」というアイデアを発想されたのでしょうか。
中島:私は常々、「日本の製造業の強みは、“人”がいい仕事をしている」ことだと思っていて、人の仕事そのものを海外にどうやって輸出できるかということをここ10数年追い求めてきました。今回のプロジェクトはその一つの形であり、Tibbo-Piはそのための基本パーツの1つです。
――なぜそのようなことを考えるようになったのですか?
中島:2004年から2006年にかけて行われた、経済産業省の「響プロジェクト」に参加したのがきっかけです。当時、アメリカからRFIDが入ってきたのですが、価格が1個50円程度しました。これを普及させるために、低価格化のための要素技術と安定生産するための技術を開発するプロジェクトでした。
この時、アメリカでは流通小売りのサプライチェーンから入ってきたRFIDを、日本ではどのように生産に使っていくかを考えました。アメリカは消費する国であるのに対し、日本は生産技術を持った国であり続けるためには、生産技術をどう持つべきか、仕事のやり方をどう輸出するかということを、経済産業省、総務省、大学の先生方と議論しました。
それ以来、日本の製造業がどうやって世界の中でポジションを維持するか、その力を海外に売っていけるのかを考え続けています。社内での異動に伴って取り組むテーマはICタグ、トレーサビリティ、セキュリティ、ヘルスケアなど移り変わりましたが、「日本の技術を世界に向けてポジショニングしていく」という点は自分の中では一貫しています。
3年前に現職に就いたことで、ようやく製造業のお客様に直接リーチできる立場になりました。そこで、日立グループだけでなく、コー・ワークスさんはじめさまざまな企業の皆さんに協力をいただいて進めてきました。
シェア工場は、多くの企業の皆さんとの協業で成立しているエコシステムです。例えば、タイの工場内に設置した100台のカメラから日本に映像を送信するための圧縮技術は、ゲーム向けムービーの圧縮技術では世界的なシェアを持つ企業に提供いただいています。タイと日本でスムーズな意思疎通をするために同時通訳機能付きのテレビ会議システムは、多言語対応のAI音声認識技術で定評のある企業が独自に開発したものです。参加いただいている企業の皆様にとっては、実験工場であり、自社のサービスを展示するショールームでもあります。そこでさまざまなことを試して良いものが実現できれば、うちの工場もよくなる。こんな楽なことはないですよね。
今、エコシステムに集まっている皆さんは、日本の知恵を集めて発信するチームです。入りたい企業にはぜひ集っていただきたい。世界から見た日本の怖さの一つは、世界と戦うためであれば、本来はコンペティターであるはずの会社がコラボレーションできるということなんですよ。日本の仕事品質を世界に輸出するために、IoTを使って、日本のポジションを一緒に作っていきたいです。
――最後に、Tibbo-Piについて、今後の期待をお願いします。
中島:シェア工場は、Tibbo-Piがあったからこそ実現できたと思っています。コー・ワークスさんには、よくこんなものを製品化してくれたと感謝しています。
今後は、Tibbo-Piそのものというより、Tibbo-Piを使ったビジネスで何ができるのか、また溜めたナレッジをどう横展開していくかが大きな課題になるでしょうね。がんばっていただきたいし、そのために私が協力できることがあれば、ぜひしたいと思っています。
――ありがとうございました。
大阪府枚方市出身。
京都大学理学部1989年卒、SIerに6年コンサルタント見習いとして勤務。退職後エンタープライズIT、通信、サイエンス分野を中心にフリーライターとして執筆を開始。
2010年4月より2017年9月までWirelessWire News編集長。
Portfolio:http://organnova.com
株式会社SAGOJO